みなさんは、「リーダーシップ」と聞くと、何を思い浮かべますか?
ピーター・ドラッカーが提唱した「リーダーシップ論」や、三隅二不二によって提唱された「PM理論」もありますが、「リーダーシップ」は役職者が持つべきスキルと考えている人も多いと思います。しかし、リーダーシップは、すべての人に必要なスキルであり、看護における「リーダーシップ」では、組織のビジョンや目標、方向性を示して、チームメンバーをそこに向かって引っ張っていくことが求められます。
今回は、固定チームナーシングによる看護方式を踏まえて、チームリーダーの皆様、院内の教育委員を担っている皆様に、ぜひ参考にしていただきたい内容にしました。
リーダーの役割
リーダーに求められるのは、リーダー個人の成績よりも「チームとして大きな成果を出すこと」です。しかも単発の成果ではなく「継続的に成果を出し続けること」が求められます。そのためにリーダーがやるべき役割は大きく分けて3つあります。
リーダーの3つの役割
リーダーシップ
ビジョンや目標、方向性を示し、チームメンバーをそこに向かって引っ張っていくことが求められます。
メンバー育成
継続的に成果を出し続けるためには、チーム力のアップが欠かせません。そのためにはメンバーを育成し、やる気にさせることがリーダーに求められます。
マネジメント
マネジメントとは「管理」することです。ここでいう管理とは「チームとして大きな成果を出す事」「チーム目標を達成するため」の目標管理になります。

リーダーの3つの役割を果たしていくために、なくてはならないのが「メンバーとの信頼関係」です。一人一人との信頼関係が築けてはじめてチーム力が向上し、大きな成果に繋がっていきます。
信頼関係を築く4つのポイント
- 正直、誠実な態度で接する。
- 話をよく聞く。
・仕事の手を止めてメンバーの話に集中する
・話は途中でさえぎらずに最後まで聞く - コンタクト回数を増やす→長時間話すよりも会話の回数を増やす
- 「宝物」だと思う
・期待は言葉にして具体的に伝える
・メンバーは敵ではなく「あなたの味方」4つのポイントのうち、「2.話をよく聞くこと」がリーダーにとっては最も重要となりますので、是非明日から意識してみてくださいね。
リーダーシップとは
リーダーシップ3つの基本
リーダーシップを身につけるにあたって大切な基本は3つあります。
①ビジョンを描く
ビジョンや目標を決めるだけでなく、達成のためのアクションプランを同時に立てること
②メンバーの心に火をつける
・「自信がない」「時間がない」「予算がない」という3つの言い訳をしないこと
・「体の動き」「頭の中」「独り言」という無意識にやってしまうことを意識的にポジティブに変えること
③決意させて結果を出す
メンバー一人ひとりのコミットレベルを把握し、低いメンバーをまずは引き上げること
リーダーシップを磨くための5ケ条
- まず手を挙げる
- 自ら失敗する
- 人脈と情報網を広げる
- 時間は1分でもムダにしない
- 決断する
「手を上げる」ことが苦手なために「2.失敗を体験する」機会が減り、ひいては「決断する」こともできない、というのが日本人に多い傾向です。
まずはリーダーシップに自信がないという人ほど、率先して手を上げることを実践してみてくださいね
メンバー育成
チームとして継続的に成果を出すためには、忙しい中でも手間ひまかけてメンバーを育てなくてはいけません。
リーダーが背中をみせるだけではメンバーは育たないのです。
メンバーを育てるためにリーダーができることはこの二つ、「スキル」と「やる気」を上げることです。
メンバーの「スキル」と「やる気」を上げる
スキルを上げる
知識化・・・知識がないメンバーには知識を与える
スキル化・・・実践が足りないメンバーには実践する機会を与える
習慣化・・・習慣化されるまでアドバイスを送る

リーダーは、メンバーがどのレベルにいるのかを見極め指導にあたります。
やる気を上げる
①プライドをくすぐってみる・・・褒めるだけではなく、思わず頑張ってしまうような言葉かけ「さすがだね、やってくれると思ってたよ」「期待してるよ」とかです。
②競争心を刺激する
③チームワークを意識させる

やる気があるとスキルの上達も早くなり、スキルが上達すると成果も出やすくなります。
教えるときに効果的な6つのコツ
- 事前告知する 「いつ、何を、何のために」をはっきり事前告知する
- 細分化する 細かく分けて目的を意識させる
- たとえ話を使う 理解しやすくなります
- 印象づける 「最初に」「強烈に」「くりかえり」印象づける
- ほめる
- フォローアップする
マネジメント(管理)
リーダーに課せられている一番の仕事は「チームとして成果を出すこと」と「目標を達成すること」です。
チームとして目標を達成するために、管理すべきことを管理する。
すなわち、「マネジメントするのがリーダーの仕事」ということになります。ここでは目標の考え方についてふれていきます。
チーム目標
チーム目標とは、固定チームの年間目標になります。病院の理念や目標があって、看護部の基本方針が出ます。
そして、その方針をもとに、各病棟の目標が上がってきます。
チーム目標は1年間で達成できるような目標を設定していきます
職場・チームの現状分析の方法
目標を設定するためには、現状分析をしていきます。
考え方としては、「こんな看護がしたい」「こんな看護チームにしたい」「こんなスタッフを育てたい」などという、看護や仕事に対する理念、目的・方針を表現して、看護チームで共有します。
理念と現状のギャップを問題状況と意識してデータを収取します。
次に現状をデータベースによって把握します。
前年度と今年度の同じ月で比較するとか、年度末ごとに比較してみると、変化がわかり比較分析できます。
そして看護チームの現状分析をします。
データを活用して、職場・チームの特徴や問題点が第三者に理解されるように表現します。
病棟の概要として、病床稼働率と平均在院日数や、頻度の高い医療処置や看護ケアの一日の平均件数などが、データで表現されると忙しさの状況がわかり、問題解決の対策が立てやすくなります。
こんなスタッフを育てたい! →チームで共有する
現状把握 患者データ・職員データ・構造設備・中央システム・看護の質→比較
現状分析 データ活用し表現する
例: 頻度の高い医療処置や看護ケアの一日の平均件数など
〈データ〉
・内視鏡件数719件/年(ポリペク・ESDは225件/年)
・7日未満の短期入院患者○名/月(全体の○%)
・職員部署経験年数1~2年が6名(Bチームの○%)
〈分析〉
・内視鏡関連の短期入院患者が多い。アナムネ聴取時に不要な項目まで聞き取り、時間をとり煩雑である。
・部署経験年数の浅いスタッフが半数を占め、重要項目のもれがないように、患者への統一した説明ができる対策が必要。
Specific(具体的) :具体的でわかりやすい
→具体的な指標を示しているか?
Measurable(測定可能):測定可能で数字になっている
→目指す到達点を数値化しているか?
Agreed upon(達成可能):達成可能である
→少し努力すれば到達できる現実的な目標であるか
Related(関連性がある):現実的、結果思考である
→病院の理念や看護部の方針との整合性がとれているか
Timely(時間制約がある):期限が明確である
→スケジューリングをしているか?中間の評価日や目標達成の期日が明確であるか❓
What(何を): 目標達成に向けて何をするのか設定する
Why(なぜ): 「なぜ、この目標なのか」という理由を明示する
Where(どこで): 計画がどこまで関係するのか、範囲を明示する
Who(誰が): 誰が担当するのか、リーダーは誰か、担当者を明示する
When(いつ): いつまでに達成するのか、スケジュールを出す
How(どうする): 具体的な方法を示す
How much(いくら・いくつ):必要な費用を提示する
目標の表現
「~できる」という表現は使わないようにしましょう。
「上昇する」「減少する」「作成する」「開催する」などをベースに考えるといいです。
→現象の変化を見えるように示すため
→確実な与薬の実践により、誤薬が減少する
→確実な与薬の実践により、誤薬が前年度比1%減少する。
目標を達成するためにリーダーがやるべきこと
- 決まったチーム目標と戦略を、チームメンバーに伝えて理解してもらう
- 目標を達成するためのチームづくり →誰が何をやるのか、役割分担する・小集団活動
- チームの目標をメンバーの目標に置き換え、それぞれ達成するまでの進捗状況を管理すること
→戦略の方向修正や役割分担の変更、目標の変更など
チーム目標評価のポイント
- 年間チーム目標の到達度(目標・計画の評価)小集団活動の評価
- 看護の継続性と看護問題解決のレベル(看護課程の評価.看護目標の達成度)
ケーススタディ・ケースカンファレンスの評価 - 看護スタッフ個々のやりがい感(主体的な行動)
- 看護チームの事故・トラブルの発生頻度
- 他部門との交流
- 看護スタッフの育成(教育システムの整備.研究)
毎月のチーム会で、目標に対する取り組みや課題の進捗状況を確認しながら、リーダーやメンバーがそれぞれ活動していきます。
9月にチーム目標(小集団活動)の中間評価を行い、計画の修正をします。
2月に、年度末の評価を行い、状況によっては、次年度に課題を引き継ぎます。
メンバーのやる気を測る 6つのポイント ~スキル・やる気を評価する~
- 仕事内容について満足しているか?
- 将来の夢や目的と方向性が同じか?
- 先輩からも同僚や後輩からも慕われているか?
- 休日出勤や残業が多すぎないか?
- 仕事の達成度が高いか?
- 自分(リーダー)と信頼関係が築けているか?
研修担当者のみなさまへ
私が教育委員をしていたころ、院内研修企画書にはかなり悩まされました。様々な本や参考書を利用し、「学習者観」「教材観」「指導観」を考え、そこから“研修目的”“研修目標”を立てていきました。今回の「リーダーシップ研修」は、「看護チームのリーダーとしての役割行動がとれるための実践方法について学び、次期チームリーダーとして自己の役割を達成するための課題を明らかにする」ということが「研修目的」になるのではないかと考えます。
研修目標は、研修内容にどのような内容を組み込むかによって決まってきます。例えば、グループワークを中心にするなら、「問題の理解と解決に向けたリーダーシップ行動のスキルを高めるために必要なこと」を討議するなどですね。場合によっては事前レポートや理解力、事前学習用の教材などを用意する必要もあると思います。
リーダーの皆様にはリーダーシップを、研修担当の方には、すばらしい企画ができるよう応援しています。
参考文献
西本勝子:固定チームナーシング、医学書院、2012
小森康充:リーダー3年目からの教科書、2013
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