はじめに
新型コロナウイルスが日本国内で初めて確認されたのが、2020年1月である。あれから早いもので1年が経過しようとしている。
この1年の間、世界中で各専門家により様々な研究がなされ、感染・治療・看護、あらゆる方面から対策が取られた。だが今だ手探りの状態が続いている。
筆者もコロナ専用病棟で働く中、この1年で大切なことがたくさん見えてきました。
日本赤十字社が出された新型コロナウイルス感染症の3つの側面では
第2の感染症 ウイルスによって駆り立てられる「不安や恐怖」
第3の感染症 不安や恐怖が生み出す「嫌悪・差別・偏見」
とあります。
まさに、この3つの側面がこころの健康を維持することに弊害を与えていると考えます。
そして、この第3の感染症に対し、コロナ専用病棟で働く看護師のメンタルサポートの支援が継続的に必要だと考えています。
今回はメンタルサポートに焦点を置き、お届けしたいと思います。
※これは筆者の主観もあり、すべての人に当てはまることではないと考えます。
コロナで疲弊する看護師の現実
防護具の着用
コロナ病棟では、呼吸器内科を中心に、様々な科の医師やコメディカルの出入りがある。院内のマニュアルで感染防止対策については周知してあるが、防護服着用についてはスタッフ皆不安を抱えている現状がある。
コロナ病棟の看護師は、一人一人の着脱に付き添い、見守り、時には制止する。それもこれも、すべてアウトブレイクを起こさないためだ。
自分自身も不安を抱えながら、患者の看護はもちろんのこと、周囲にも目を配り、神経を使っている。
医療従事者への差別・偏見
「看護師というだけで、近所の人から避けられる。」「保育園で、子供が別室にされた。」「開業医やマッサージ店で、診療拒否を受けた。」「お葬式で別室に案内された」これだけでは収まらず、院内でも同じ医療従事者なのに、コロナ病棟というだけで避けられたり、「手当もらえていいね」などと心ない言葉を言われていた。
業務量増
今までは業者との契約で清掃をしてもらっていたが、コロナ病床の廊下やトイレ、浴室の掃除、リネン類の洗濯はすべて看護師で行っている。また、各種書類のスキャナーやシュレッダーなど事務関係の業務、各種器械類の点検もすべて看護師で行っている。
防護具を着た状態でしなければならず、それだけで負担が増える。真夏は汗だくになりながら、水分を取りたくてもすぐに取れない状況の中で乗り切っている。
通常看護ができないジレンマ
看護師は患者の命を守り、生活を支える。患者に共感して思いをくみ取る。コロナ患者の多くは、家族に会えない寂しさや、ネットでの誹謗中傷で精神的に不安定なことが多い。タッチングや手を取って話を聞いてあげたいが、限られた時間のなかで限界があり、また防護具を着ているので見えているのは目だけである。求められている看護や、自分のやりたい看護はできず、ジレンマを感じていた。
ストレス対策
病院一丸となって取り組む
病院長が、今後の見通しや組織としての方針を明確に職員に伝えることが、職員のストレス軽減に効果的と言われています。そして、病院一丸となって取り組んでいるよ、というメッセージを伝えることが大切です。
コロナ病棟で働いているスタッフの中には、「自分たちだけがしんどい思いをしている」という気持ちで働いているスタッフもいます。そして「使命感」を持って働いています。
病院長や看護部長がコロナ病棟へのねぎらいや、活動の評価をすることで、スタッフは頑張れます。できていないことを洗い出すのではなく、シンプルに褒めてあげてほしいです。目の前でスタッフが頑張っている姿を、しっかり見てほしいです。
感染防止対策
感染対策について、環境や設備、情報提供も必要です。マスク・フェイスガード・手袋・エプロンなど、物資も必要最小限で使用している状況もあります。それだけでも医療従事者のストレスは増加します。また、自分が感染するわけにはいかないという思いを強く抱いていています。
現場のスタッフの意見に耳を傾け、感染対策を追加したり、十分な物資が供給できるよう配慮が必要と考えます。
そして何より、チェックリスト等を用いて相互チェックしていくことで、スタッフ自身に安心感を与え、また自信を持って看護に当たれます。
コミュニケーションを低下させない
休憩中のソーシャルディスタンス、飲み会の自粛、Web研修への変更など、コミュニケーションの機会が低下しています。こんな時こそ、コミュニケーションを大事にしなければなりません。
勤務終りにミーティングをしたり、看護研究に取り組んだり、面談の機会を増やすことも大切です。
筆者が特に気を付けていることは、あまり愚痴を言わないスタッフへの声掛けです。愚痴を言って発散できるスタッフより、ため込んでいるスタッフの心のケアを優先にしています。
おわりに
このブログを書きながら、現場を思い出し何度も涙があふれてきました。
看護管理者として今私にできること。それは面談を重ね、思いを聞き共感すること。そして、働く環境を整えること。スタッフの声を発信し続けることだと思っています。
まだまだ終わりは見えませんが、筆者もスタッフに寄り添い、共に明るい未来に向かって進みたいと思っています。
参考文献
・日本赤十字社、新型コロナウイルス感染症対応に従事されている方のこころの健康を維持するために(2020年9月11日)
・ILO、COVID-19流行下での仕事の心理社会的ストレスへの対処ガイドライン(2020)
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