臨床では、疾患により腸内に便を貯めないほうが良い患者や、便秘の患者、そして手術前にもよく使用されています。医師は、禁忌項目にあがっている患者へ浣腸の指示を出すこともあります。禁忌項目に上がっていても処置が必要な患者も実際におられます。患者がどういう目的で浣腸をするのか、浣腸をすることで予測できることを考えて行動できるよう学んでいきましょう。
目的
- 腸壁を刺激することで、排便・排ガスを促す
- グリセリン浣腸液の注入により、主に直腸およびS状結腸の固形化した便を軟らかく
なめらかにし、排出しやすくなる
必要物品
ディスポーザブルグリセリン浣腸液(30ml、40ml、60ml、120ml) 潤滑剤(白色ワセリン)
ピッチャー 処置用シーツ バスタオル トイレットペーパー 温度計 膿盆またはナイロン袋 必要に応じてポータブルトイレや便器 陰部洗浄物品 未滅菌手袋 プラスチックエプロン マスク 擦式アルコール消毒剤
方法・留意点
準備
- 指示の確認をする
- 患者に浣腸の必要性、体位、方法を説明し、承諾を得る
- 事前に排尿を済ませてもらう
- 指示量のディスポ-ザブルグリセリン浣腸液を準備する
- ディスポ-ザブルグリセリン浣腸液を40度程度のお湯が入ったピッチャーにいれ、内溶液を体温程度に温める。
直腸温は約37.5度であり、それよりやや高めの温度にした方が直腸壁を刺激し、腸管運動を促す。浣腸液の温度は43度以上では高すぎて粘膜を損傷させる可能性があります。また、温度が低すぎると毛細血管が収縮し、血圧上昇や悪寒が起こる場合があります。
- 室温の調整、カーテンやスクリーンなどをすぐ使用できるようにしておく(浣腸後にポータブルトイレを使用する場合は患者の病室または処置室へポータブルトイレも準備しておく)
- ディスポ-ザブルグリセリン浣腸液は、カテーテルの先端まで浣腸液を満たしておく。
- カテーテルの目盛りを目安とし、挿入の長さにストッパーをスライドさせる 挿入の長さ
成人:6~7cm 小児:3~6cm 乳児:3~4cm挿入の長さは、浣腸の効果がみられ、かつ腸管への刺激の少ない長さが適切である。挿入が長すぎるとS状結腸への移行部の損傷、直腸穿孔の危険がある - 部屋の準備をする。同室者がいる場所での実施は、同室者への配慮も行う
- 患者の準備をする。
①異常の早期発見のため気分不良の有無を確認し、血圧測定を行う
②タオルなどをかけ、その下で寝衣と下着を下ろしてもらう
③患者に左側臥位をとってもらい膝を曲げてもらう
④処置用シーツを敷き、必要物品を配置する左側臥位が解剖生理学的に直腸、S状結腸、下行結腸に浣腸をうまく挿入できます。立位での浣腸は会陰部へカテーテル部分が当たってしまう危険性があり、粘膜損傷や穿孔を起こす危険があるため禁忌
実施
- 浣腸による副作用出現の可能性を伝え、症状出現時には看護師に速やかに 伝えるように説明する
- エプロン・手袋を装着し、患者の右側に立つ
- カテーテルの先端からカテーテル挿入の長さまでに潤滑剤を塗る
キシロカインゼリーは局所麻酔薬であり、キシロカインショックを起こす可能性があるため使用せず、ワセリンとかを使用しましょう
- 患者に口で深呼吸するように促す
口呼吸をすることにより、腹圧がかからないようにするとともに、浣腸液の逆流を防ぐ - カテーテル先端を肛門に挿入し、その後は腸管の走行に逆らわないように腸管壁に沿うようにして挿入する
- カテーテル挿入時に抵抗があった場合は、一度引き抜き再度試みる
- 浣腸液を50ml/15秒の速さで注入する
浣腸液の注入速度が速すぎると排便反射が生じ、遅すぎると患者が我慢できず、薬液のみが排出してしまう - 浣腸液の注入中は、患者の不快、腹痛、悪心、冷汗などに注意する
- 浣腸液を注入したら、粘膜を損傷しないように速やかに抜く
- 肛門をトイレットペーパーなどで1~3分間圧迫し、便意が強くなってから排便するように説明する。浣腸液の注入直後では、便が水分を吸収して軟化しておらず、浣腸液のみが排出されてしまい、浣腸の効果が得られないため、5分程度我慢してもらう
浣腸による強制排便時には、迷走神経反射により循環血液量の低下が起こり、血圧の低下や脳血流量の低下による失神が起こる可能性危険があるため、できる限り患者のそばを離れないことが望ましいです。離れる場合には、必ず患者がナースコールを押せること、もしくは人を呼べることを確認しましょう
- 排便の介助
①床上排泄の場合は患者の状況に応じておむつまたは便器を挿入する
②ベッドサイドでポータブルトイレを使用する場合は、ベッドの高さ調節を行い、見守りで移動する
③トイレに歩いて行く時には、状況に応じて見守りを行う
観察
- 排便の有無
- 便の性状・量
- 腹部の状態(患者の訴え・残便感の有無・腹痛の有無・)
記録
- 施行前後の観察事項
- 施行時の様子(浣腸液の量、排便の有無、便の量・性状
- 浣腸施行による腹部症状や残便感、効等の反応を記録する
浣腸の禁忌/注意疾患
- 腸管内出血、腹腔内炎症のある場合や腸管に穿孔またはその恐れのある場合
腸管外露出による腹膜炎の誘発、蠕動運動亢進作用による症状の増悪、グリセリンの吸収による溶血、腎不全の可能性がある - 全身衰弱の強い場合
強制排便による衰弱状態を悪化させ、ショックを起こす可能性がある - 下部消化管術直後の場合
蠕動運動亢進により腸管縫合部の離解など、症状を悪化させる場合がある - 悪心・嘔吐または激しい腹痛など、急性腹症が疑われる場合
- 重症の高血圧患者・動脈瘤・心疾患のある患者
浣腸の刺激や急激な排出による循環血液量が変化し、血圧の変動を起こす恐れがある - 妊産婦
子宮収縮を誘発し、流産・早産を起こす可能性がある - 高齢者
急激な体液量減少による脱水などの恐れがある - 頭蓋内圧亢進症状のある患者、または予測されるとき
ちょっと一言
グリセリン浣腸は一般的に使用されている浣腸液です。患者によって、30ml・60ml・120mlなど使用しますが、小児などは、15mlという指示が出たりします。そういう時は、浣腸液を30mlから抜いて使用していました。あとやはり怖いのは、浣腸後に血圧がド~ンと下がることです。浣腸前には必ず血圧測定し状態を把握しましょう!そして、筆者がよく失敗していたのは、浣腸後、患者が便意を我慢できず、移動時に出てしまうことです。テッシュを挟むだけでは足りないので、パッドや吸収シーツを当てて移動していました。参考にしてみてくださいね。
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