はじめに
「心肺蘇生法を実施しないこと」を医療現場では DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)といいます。近年多くの施設でDNARの同意を取るようになってきました。
最期を迎えられる患者さん(家族)は、医師から十分な説明を受け、納得した上で、その判断をします。また、死を受け入れている家族とそうでない家族とでは、死後の対応もエンゼルケアの参加にも違いが出てきます。
エンゼルケアの形は様々です。私たちの最後の役割は、感染症予防と、外観をきれいに整えることです。
今回は一般的なエンゼルケアの方法について共有していきたいと思います。
目的
- 身体の変化を最小限にし、外観の変化を整え、自然な状態にする。
- 患者の身体を清潔にし、二次感染と汚染を予防する。
- 患者の尊厳が死後も保たれるように配慮し、家族が死と向き合い、死を受容するための環境をつくる。
必要物品
全身清拭に使用する物品(洗面器、お湯等)、着衣(家族の希望によるもの、紙オムツ)
電気シェーバー、美容用具(クレンジング、保湿クリーム、化粧品、ブラシ)洗髪用品、白布、ビニール袋、エプロン、手袋、マスク、脱脂綿
必要時(処置に必要な物品):剪刀、ガーゼ、絆創膏、防水テープ
方法・留意点
死亡時
- 医師により死亡確認がおこなわれた後、患者に黙とうし、哀悼の意をささげる。
- 機器類、酸素マスク、末梢ルート類を取り外す。(家族の悲嘆の程度により、最小限で退室する場合もある)
- お別れの時間を提供する。お別れが終わったら声をかけてもらうように伝える。
死に向き合い、存分に悲しめる時間がもてるように配慮する。 - お別れの間にエンゼルケアに必要な物品を準備する。
宗教や習俗により死後のケアが異なる場合があるため、家族の意向を聞きましょう。
お別れ後
- エンゼルケアについて所要時間も含めて家族に説明をし、できる範囲で参加の意思を確認する
- 着替えについて家族に希望を聞く。希望や用意がない場合は、病院で購入できる浴衣について説明する。希望する着替えが手元にない場合、自宅に帰られてからでも葬儀社に着替えを依頼することができる旨を伝える。
- 患者が身に着けている装飾品、腕時計を確かめ、家族の意向を聞く。この時点で必ずしも外す必要はない。火葬場によっては金属類を外す必要があるが、その後は葬儀社の判断に任せる
- 葬儀社や寝台車の手配など、退院方法の確認をする。お迎えの時間によっては、ケア内容を制限することが求められるため、臨機応変に対応する
ケアの開始
参加されない場合も希望をきき、できる限り家族の意向を尊重する。
- 患者に一礼をする。
- ディスポ―ザブル手袋、マスク、プラスチックエプロンをつける
- 気管カニューレ、CVカテーテル、ドレーン、胃ろう、ストーマ等のケアを行う。 胃瘻:抜去しないが希望により抜去することもある。(専用の抜去器必要)
ポート:抜去しない
気管切開部:カニューレを抜去し、肌色テープで保護する。必要があれば縫合する。
永久気管孔:家族と相談し希望されれば保護する。(基本的に処置は不要)
ペースメーカー:抜去不要。火葬の際に破裂するが破裂音程度である。 - 創部(褥瘡、手術創等)のガーゼ交換、包帯交換をする。
点滴痕も含めて、必要時には防水処置をしっかり行う。ストーマ:新しいパウチに交換する。
褥瘡:体液が流出しないよう処置する。処置を望まれない場合は、万が一の出血に備
えて、防水性の絆創膏や、吸水シートを家族に渡す。体液の漏出が起こりやすい死亡時の状況
・敗血症や重篤な感染症で高体温が持続し死亡した場合
・肺水腫などで肺に水を含んだ患者
・(多量輸液などにより)著しく浮腫を生じている患者
・腹水や胸水の溜まっている患者点滴抜去後止血したように見えていても、移動の際に再出血する可能性が高いです。必ず、小ガーゼで圧迫し、防水処置を行いましょう
- 鼻腔ケアを行う。
鼻腔内に付着した汚れや体液等をふき取り清潔にする。原則として、詰め物処置は行わない
家族が詰め物を習俗としてとらえている場合はその意向に従い、鼻腔内を損なわないように配慮して、少量の脱脂綿を詰める。すでに漏液・出血等がある場合や漏液が予測される場合は、幅1~2cm、長さ10
~15cm程度の綿を数本準備し、ピンセットで綿の先端を持ち、鼻腔から鼻咽頭に向けて下方向に挿入する。(鼻腔エアウェイを挿入する要領で。小鼻には詰めない) - 口腔ケアを行う。
歯(歯間)や口腔内の汚れやぬめりを、ブラシを用いて除去する - 口元を整える。
義歯がある場合は装着し、可能な限り整える。義歯を装着する場合は、後にずれたりしないように、入れ歯安定剤を使用することが望ましい。
歯がない場合や、痩せて生前の印象と異なる場合は含み綿で整える場合もある。鼻腔の場合と同様に、原則として、漏出予防としての一切の詰め物処置は行わない
すでに漏出・出血がある場合や漏出が予測される場合は、幅5~6cm、長さ15cm程度の脱脂綿を数枚用意し、ピンセットで綿の先端を持ち、舌を巻き込まないように上顎に沿って綿をすべらせながら、咽頭の奥深くに挿入する - 目のケアを行う。
徒手でまぶたが閉じない場合や眼球にくぼみが見られる場合は、眼球の上にごく少量の脱脂綿(ティッシュ1枚分の厚さ程度)をコンタクトレンズのように乗せ、下まぶた、上まぶたの順に閉じる。 - 清拭、洗髪を行う。
- 陰部のケア
便や血液が出ている場合は、きれいに洗浄し、新しい紙おむつを装着する - 着替えを行う
フェイシャルケア
- クレンジング剤の塗布
クレンジングミルクで汚れを浮きたたせるように顔全体に塗る
耳や首など見える部分はすべて行う - お顔そり
基本的には、電気剪刀を使用する。その場合はクレンジング前に行う。 - 保湿(乾燥予防と潤い)
保湿クリームを顔全体、口唇、耳、首、手指等、露出している部分全てにまんべんなく塗る
保湿クリームがない場合ワセリンを使用する。その場合、手でしばらく温めてから、塗布する。 - 顔色の整え
クリームタイプのファンデーションを顔全体や耳、首など露出した部分に薄くムラの内容に塗布する。
フェイスパウダーをパフで軽く押さえる。
テカリを抑え、余分な化粧剤や油分を取り除き、肌に密着させる。
黄疸症状の強い遺体→黄色のカバーメイク - 口唇の保湿と色づけ
保湿効果の高い、薄づきのリップをリップブラシで塗り、口唇の乾燥予防とツヤ感を出す。
指で塗ってもかまわない
リップがなければ、ワセリンで代用してもよい - 髪を整える
ご家族の要望に十分配慮し、櫛やブラシで髪を整える。
前髪等その人らしさを出せるように気を配る
ケアの終了
- 全身を整える
下顎が下がり、口が開く場合は、少し枕を高めにして顎を引き、タオルを丸めるなどして顎の下に入れて閉じる
両手はまっすぐ体幹に沿わせるか、腹部で合わせる。また組んでもよい。
最後にもう一度全身の着衣、寝具を整える - 顔にかける布を使用するかどうかをご家族に確認し、必要な場合お顔にかける。
ここで使用しない場合も、後々使えるように、肩のあたりに添えておく。 - 患者に一礼をし、退室する。
ちょっと一言
私は今まで、様々な死の場面に携わってきました。
中でも気を付けてきたことは、エンゼルケアを行う際に、家族を巻き込んで一緒に参加してもらう事です。
もちろん、これには反対の意見もあります。しかし、「看護師でないとできない事」「ご家族だからできること」を見極め、最後の場面を共に過ごす事は、残されたご家族にとってはとても良い時間になってきたと思っています。ご家族のご意向を聞き、「看護師さんにお任せします」と言われれば強制もしません。
歯科衛生士のご家族がおられたときには、最後の口腔ケアの声掛けをしたり、また、女三姉妹のご家族の時には、一緒にお化粧し、おしゃれなお洋服を一緒に着て、笑顔でエンゼルケアを終えれた経験もあります。
エンゼルケアの基本にのっとり、患者・家族の意向に沿ったケアができるような環境を作っていけたらいいと思っています。
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