はじめに
CARTとは、Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy: 腹水濾過濃縮再静注法の略で、肝硬変や癌などによって貯まった腹水を抜いて、癌細胞や細菌や血球成分を取り除いて、アルブミンなどの有用なタンパク成分が濃縮された腹水を、点滴で戻す治療方法です。
看護師として働いていても、なかなか経験できない治療法かもしれません。筆者は婦人科病棟と内科病棟に勤務していたころに、何度か経験させていただきました。CARTをするために入院し、退院していく。パンパンだったお腹がほぼ戻り、苦痛が軽減できます。そして食欲も出て精神的にも元気になります。この治療法を行うためにはMEさん(臨床工学技士)の力なしでは行えません。チーム医療、大切ですね!
腹水とは
お腹にある臓器をつつむ膜を腹膜といいます。腹膜は、臓器と臓器の摩擦を少なくするために腹腔とよばれるすきまをつくっています。腹腔には、通常20~50mLの水が入っていますが、さまざまな病気の影響で通常よりたくさん貯まった状態を腹水といいます。

腹水がたまると、強い腹部膨満感、食欲不振、呼吸困難、便秘、尿量減などの症状がおこります。
CARTの目的
- 腹腔内に腹水が貯留していると考えられる場合、細胞学的、病理学的診断を行う
- 腹水の排除を行い、腹部膨満感の軽減をはかる
- 薬液注入による治療
- 腹水穿刺後のアルブミン補正
必要物品
エコー 1%キシロカインポリアンプ 絆創膏 メジャー 血圧計 膿盆 滅菌スピッツ(2~3本)
輸血セット 注射針(18G、21G、22G、24G) 注射器10ml(局麻用)
注射器20ml~50ml(排出用)
穿刺針は医師の指示のもの(一時的穿刺、持続穿刺、数時間穿刺により異なる)
滅菌手袋 包交車 滅菌セッシ ガーゼ Yガーゼ 三方活栓
穴あきシーツ60×60cm 1枚 滅菌シーツ90×90cm 1枚 処置用シーツ1枚 排液瓶
バスタオル 腹帯(必要時) 注入する薬剤(指示がある時)
患者の状態に応じて:モニタ(呼吸心拍、SpO2)関連物品
腹水再静注の場合:腹水再静注用の穿刺針(18G)、排液バック、排液用ルート、灌流用に生食1000ml 2本準備
方法・留意点
処置前
- 患者及び家族に医師が説明を行い、同意を得る
- 処置中は動かないように説明する
- 局所麻酔をしてから処置をすることを説明する
- 穿刺時に苦痛を感じた時は我慢しないよう説明する
腹水穿刺は、腹水貯留と排出を繰り返すことが多いため、患者への説明や声かけには十分配慮し、精神的安静が保てるように努めます
- 必要物品を準備する
- 患者の準備を行う
- 排尿をすませておく
- バイタルサイン測定、腹囲(臍上、最大)を測定する
- 医師の指示に従い、患者に安楽で適切な体位をとる(臥位は半座位)
- カーテンを閉め、バスタオルなどを使用し、不必要な露出を避け、プライバシーの保護に努める
- 衣服をゆるめて腹部を出す。周囲の汚染防止のため、腰部、臀部に処置用シーツを敷く
処置中
- 排液瓶をベッドサイドに準備する
- 穿刺部の消毒の介助を行う
- 医師に滅菌手袋を渡し、医師は手指衛生後滅菌手袋を装着
- 穴あきシーツを渡す
- 局所麻酔の介助を行う
- 輸血セットを無菌的に渡す。フィルター側を看護師が持ち、フィルターを斜めにはさみで切る。切り口を滴下が分かるように排液瓶の側面にテープで固定する。
- 穿刺針を医師に渡す。穿刺後さばきガーゼとテープで固定する。原則、穿刺針(サーフロー外筒)や排液ラインを患者の体に固定し、穿刺針が抜けないようにする。
- 医師に予定終了時間、予定排液量を確認し、滴下速度が一定となるようにクレンメで調整する。
気分不快、脈拍増加、血圧低下、呼吸困難、顔面蒼白、目眩、ショックなどの症状があれば直ちに排液を中止します。
- 予定排液量に達したら、医師により穿刺針を抜針する。
- 穿刺部位消毒後、滅菌ガーゼにて圧迫固定する。
腹壁が膨張して表皮が薄くなり損傷を受けやすいので、低刺激性のテープを使用し皮膚保護します
- 穿刺終了後はすぐにME室へ連絡し、腹水を持ち帰って濃縮する。
- 濃縮腹水が完成したらME室より連絡がある。
- 医師の指示の輸液でルート確保(22Gまたは20G)し、医師により腹水再静注開始。輸液終了時間は医師指示確認する。
観察
穿刺前
バイタルサイン、一般状態、臍上と最大の腹囲測定(最大位置をマーキングしておく)
穿刺中
バイタルサイン、一般状態、ショックの前駆症状、腹水の性状と量、穿刺針と固定状況
穿刺後
バイタルサイン、一般状態、臍上と最大の腹囲測定、穿刺部のガーゼ汚染(腹水の漏出、出血)
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