吸引は高度な看護技術で、どこまで管を入れたらいいのか、タイミングはどうしたらいいのか誰でも一度は悩んだことがあると思います。
「新人研修で教えてもらったけど・・・怖いなあ」
「消毒のタイミングはいつだったかな」
「出血したらどうしよう・・・」
でも大丈夫!解剖生理を理解しながら、順番に説明していきますね!
目的
- 鼻腔・口腔内の貯留物(異物)や分泌物(唾液や痰)を除去
- 気道閉塞の予防、肺換気の改善
- 呼吸器合併症の予防
必要物品
中央配管(吸引)装置またはポータブル吸引器 ・ 吸引ポット(ディスポーザブル排液 貯留 容器)・ スネークチューブ ・聴診器 ・吸引カテーテル(口腔・鼻腔用6~14Fr:患者に合ったサイズ) ・ 擦式消毒用アルコール製剤 ・通水用水入れ容器(1日1回更新) ・通水用水(水道水)・ディスポエプロン・ サージカルマスク ・未滅菌手袋 ・アイシールド ・アルコール綿 ・パルスオキシメータ ・ ゴミ箱 (足踏みペダル式)・除菌洗浄ペーパー
必要時:口腔ケア用品(ガーグルベースン、吸い飲み、マウススポンジなど)
方法・留意点
1.器具・機器の準備
1)吸引器を壁掛けハンガーに垂直に接続し、アダプタをアウトレット(吸引口)に差し込む
2)吸引ポットを吸引器本体に接続し、吸引器全体の蓋を閉め、吸引ポット接続口にスネークチューブを接続する
3)吸引圧調節ダイアルで吸引圧を確認する
20kPa前後に調整する
4)スネークチューブに吸引カテーテルを接続し、水道水を少量吸引して確実に吸引できるか 確認する
5)患者のベッドサイドにアイシールド、ディスポエプロン、サージカルマスク、未滅菌手袋、ごみ箱(足踏みペダル式)、聴診器、アルコール綿を設置する
2.吸引前の評価を行う
~吸引の必要性を判断する~
1)頚部や前胸部の聴診音
2)自覚症状:痰や唾液などの貯留感
3)呼吸状態:回数、深さ、リズム、呼吸音
4)チアノーゼ、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2値)
5)血圧、脈拍

しっかり評価して、不必要な吸引はさけましょう
3.患者の準備
1)患者に吸引の説明を行い、患者または家族の承諾を得る
・吸引は苦痛が生じる処置のため、開口などの協力が必要なので、承諾を得ることは重要である
・意識障害のある場合にも必ず声かけを行い、倫理面での配慮を忘れないように注意が必要
2)左右どちらかに顔を向ける
吸引により嘔吐が誘発されることがあるため、顔を横に向け吐物の誤嚥を防ぐ
3)嘔吐反射のある場合にはセミファーラー位で行う
仰臥位よりセミファーラー位の方が誤嚥のリスクが低い
4)咳き込みができる患者の場合は、何度か咳嗽をしてもらい排痰を促す
5)体位ドレナージ、肺理学療法(深呼吸、スクイージング)、吸入などを併用し吸引を効果的に行う
4.吸引の実際
1)器具・機械、患者の準備ができたら、手指衛生を行う
2)サージカルマスク、ディスポエプロン、アイシールド、未滅菌手袋の装着を行う。
湿性生体物質が飛び散る可能性のある処置やケア時には、粘膜暴露汚染および交差
感染予防のために未滅菌手袋、ディスポエプロンを装着する
3)吸引圧(150mmHgまたは20kpa程度)を確認し、スネークチューブに吸引カテーテルを接続する
先端の汚染を防ぐため、この時点では吸引カテーテルを滅菌パックの袋からは出さないこと
4)カテーテルの滑りをよくするために、最初は水道水を少し吸引する(分泌物の粘稠度により、吸引圧は調整する)
5)カテーテルの先端から5㎝付近を利き手で持つ
6)利き手反対の手は接続部を持ち、母指でカテーテルを折り、圧をかけない状態にして挿入する
陰圧をかけて挿入すると粘膜に吸い付き、挿入しづらくなる
7)カテーテルの挿入
①口腔吸引の場合
・挿入目安:口腔から咽頭まで 約13㎝(±2㎝)
・目視できる貯留物または気道分泌物に向かってカテーテルを挿入する
・意識のある患者の場合、舌を前に出し、できれば「あー」と声を出してもらう
咽頭腔が広がり吸引しやすい
・カテーテル先端で嘔吐反射が誘発されやすい部位(舌根部や扁桃部、咽頭後壁)を刺激しないよう注意する
個人差や左右差があるため、必ずしも嘔吐反射が起こるわけではない
②鼻腔吸引の場合
・挿入目安:鼻腔から咽頭まで約15㎝(±2㎝)
・左右いずれかに向いてもらい、顔面と平行にカテーテルを2~3㎝挿入し、その後は顔面と直角になるように挿入する
鼻孔から鼻中隔内側に約2㎝入った場所はキーゼルバッハ部位と呼ばれ、鼻出血しやすい
・吸引カテーテルを折り曲げたまま咽頭部まで進める

咽頭までの上気道には、常在菌が多数存在しています。下気道まで吸引カテーテルを挿入することは、分泌物や細菌を押し込むことになり、感染のリスクを高める可能性があるため、カテーテルを挿入する深さに注意しましょう
8)吸引カテーテルの折り曲げている母指を離し、カテーテルを回旋させながら引き分泌物を吸引する
カテーテルを回旋しながら吸引することで圧の集中を防ぎ、カテーテル先端の粘膜の損傷を予防できる
9)吸引時間は10秒~15秒以内とする
患者の苦痛、低酸素状態を回避するため
( 1回で吸引しきれない時は無理せずもう1回行う )
10)吸引後使用したカテーテルの表面をアルコール綿で拭いた後、水道水を吸引し破棄する (この時、管内の水が残らないようにしっかり通気しておく)
通水することでスネークチューブ内の汚れを落とす
11)1度の吸引で複数回吸引する場合は呼吸状態が安定するのを確認してから2回目の吸引を行う
12)吸引が終了したら、カテーテルの接続を外して未滅菌手袋とともに破棄し、吸引スイッチをオフにする
13)ディスポエプロン、サージカルマスク、アイシールドを外し、手指衛生を行う
14)患者にねぎらいの言葉をかける

吸引は患者にとって負担であることを考慮し、今後の吸引を拒否されない為にもねぎらいの言葉かけは重要です。しっかり思いを受け止めてあげましょうね
15)吸引後の評価を行う
①分泌物の性状:量・色・粘稠度
②呼吸状態:回数・深さ・リズム・呼吸音
③チアノーゼ・動脈血酸素飽和度 (SpO2値の変化)

気道の空気が吸引されることにより、低酸素血症や肺胞虚脱などを合併する可能性があるので、注意深く観察していきましょう
④頚部・胸部聴診音
⑤咳嗽反射の程度
⑥血圧・脈拍
⑦自覚症状:口腔・鼻腔・咽頭部の残留感、疼痛、苦痛
16)手指衛生を行う
5.後片付け
1)吸引ポットは最大メモリの70~80%になったら、新しいものに交換する 。分泌物が凝固剤によって固まったことを確認して、ビニール袋に入れ口を縛った後感染性廃棄容器へ破棄する
2)吸引器は除菌クロスで清拭する
3)スネークチューブは患者毎に破棄する
6.記録
1)実施時間
2)観察項目
①患者の呼吸状態
②患者の表情
③バイタルサイン(呼吸音含む)
④分泌物の量や性状(色、粘稠度)
ちょっと一言
吸引は、手術後の患者や誤嚥性肺炎の患者から人工呼吸器をつけた患者まで、幅広く行う行為になります。また、生まれた時から吸引が必要な患者もおられ、様々な方法や手段があります。筆者はその中でも、「指導」に携わることが多くあります。例えば、喉頭摘出術を受けた患者への退院指導を例に挙げると、入院中は自己で吸痰ができるよう指導し、退院に向け在宅での生活が送れるよう吸引機の手配から業者・訪問看護師とのつなぎ役まで行います。一生吸引をしないといけない患者にとっては「吸引」という看護技術を「患者(家族)が一人でできる」ことを目標にしていきます。指導できるように、一つ一つの行為をしっかり身につけていきたいですね!
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